【雨の庭のお茶会】
ぽつり、ぽつり。
空はまだ明るいのに、雨が降ってきた。
濡れるから雨は苦手だ。ぼくは、近くの木の下へ駆けこんだ。
水辺には睡蓮が咲いていて、雨が水面に静かな輪を描いていた。
「こっちこっち」
どこからか、声がする。
小さな丸いテーブルには、しわのある白いクロスと、ガラスのカップ。
そこに、青みがかったエメラルドグリーンのカエルが立っていた。
「ぼくはエミール。きみは?」
「ノア」
エミールは、椅子をぼくの方へくるりと回して、
湿ったクロスのしわを、ていねいになぞるように整えた。
「この庭は、ぼくのお気に入りの場所なんだ」
雨に濡れた庭。 しずくが奏でる、静かな音楽。
緑がふるえ、そよぎ、ゆれていた。
雨と緑の匂い、カップから伝わるハーブティーのぬくもり。
ぼくたちはしばらく、雨の音に耳をすました。
ふたりだけの小さな音楽会。
ぼくは、こんな雨なら好きかもしれない、と思った。
Illustration & Text (C)tono
編集部より
雨の音を聴く静かで優しい時間。こんなお茶会に誘われるのなら雨の日も悪くないかもしれませんね。
次回は7月下旬公開予定です。公開のお知らせはパイコミックアートのXにてお知らせします。ぜひフォローしてお待ちいただければ幸いです。