寺田克也四龍プロジェクト
2016年5月25日 軍艦島
15:50に、最初に上陸した校舎前に移動。まったく休まず、すぐに続きにとりかかる。座り込み、襖の下部に描きこんでいく。この時点で全体の絵の構成となる線はほぼ完成しており、細かい作業が続く。
「襖のサイズで描くのは、気持ちいいんですよ。(使うのが)マッキーだしね。普段、B4ぐらいにボールペンで描くっていうのがオレのフィジカルサイズなんです。画面に対する線の太さみたいなものが決まってて、それがB4にボールペンで描くのと、襖にマッキーで描くのと、サイズ感がすごく似てるから、描きやすいんだよね」
寺田さんはそう言うが、下描きもなしで襖の上に完璧な龍の絵が描かれていくのは、見ている側からすると魔法のようでもあり、あまりにも当たり前に描かれていくのでそれが逆に普通のようでもあり、つい普通のこととして見てしまい、不意にその凄さに気づいてゾッとする瞬間が何度もあった。
「全体のバランスって、すごい理詰めなんですよ。サイズが決まっているので、頭をまず入れると体のバランスが決まる。ただ、サイズが大きいと、絵が風景になっていくから、そこは面白いよね」
一番広く使える場所がこの校庭。どこで描くか準備中。
しゃがみこんで下部の描きこみ。なかなか辛そうな体勢。
重要な線は引く前に、指でなぞって確認する。
このドローイング中、
海上にまでドローンを飛ばし、空撮が行われていた。
校庭前ではここまで。曲線のなまめかしさから
「雌ですか?」と何度も訊かれていたが、雌雄はないとのこと。
17:20。少し陽が傾きかけてきた頃、堤防の上を歩いて元貯炭場のベルトコンベア跡地に移動。「あと30分で描きます」と宣言し、繊細な線をどんどん入れていく。時計を見つつ、絵から5メートルほど離れて全体を見ながら、ディテールを描き込む。どんどん西日が強くなっていく中、龍の絵が完成した。
「終わったあとは反省点しか見えないから、今はここがダメだったなっていうことしか見えないね。まあまあうまくおさまったかなとは思うけど。今回は、一番描きやすいモチーフを温存してたから、一番疲れてないですよ。
軍艦島が好きだからとか、思い入れがあるからとか、そういうのは絵には入れないようにしてる。好きとかそういう感情はなし。仕事だからね。自分は依頼を受けた立場でやってるわけだから、長崎のためだとか、そんな風に必要以上に前のめりにならないようにしてる。
仕事の上下、重要度ってオレの中では本当に一切なくて、どの仕事も同じテンションでやらないとダメなんですよ。軽い気持ちでやったものがすごい褒められたりすることもあるしね。だから『この仕事だから絶対に受けたい』みたいなこだわりは20代でもう捨てましたね。そうじゃないとダメだと思う」
柵のない堤防の上を歩いて移動。
高所恐怖症にはかなり怖い!
これが石炭を運んだベルトコンベア跡。
今では何だか遺跡のように見える。
夕暮れとの時間の戦い。「あと30分で仕上げる」という言葉の通りに集中しているが……
鼻歌を歌いつつペンを走らせている寺田さん。
これまでよりも距離を置いて、絵の全体を確認していく。
完成! 普通の龍のようでいて、何か異形なもののような幻獣が姿を表す。
これまでの3島でのドローイングは、一般のお客さんを入れずに行われた。4島目の伊王島では、BLUE FESの中で誰でも観ることができる。すべて完成した後は、伊王島の港のラウンジに展示される予定だ。伊王島でのドローイングは、どのようなものになるのだろうか。
「ネットで音楽とか映像とかいろんなものがいつでも手に入るようになって、逆にライブの時代になってるんだよね。ネットが主流になってから、余計にライブで上がるようになってる。目の前で起こってることの面白さって、逆に今の若い子のほうが知ってるんじゃないかな。長崎で描けば、長崎近郊の人はテンション上がるし、遠くに住んでてなかなか来れない人も『行きたい!』ってテンションが上がるのが面白いんだよね。もちろん、全員が来れるわけじゃないし、来れない人はいるんだけど、観に来れないことも含めて面白いなと。その面白さって、いろんな場所でやるからこそ生まれるんだよね。それは京都とか、福島とか、ロスとかでライブドローイングをするようになって顕著に感じるようになった。来れない人のフラストレーションがあればあるほど、現場にいる人のテンションが上がってる感じがするんだよね」
軍艦島では、少数ながら現地レポーターを募集していた。そこに自腹で東京から行った人間は、私のほかに何人もいた。そこで見る風景、目の前で起きていることの凄さは、淡々としていて静かで、強烈だった。
天才と呼ばれる寺田さんだが、彼はいつも自分は「絵が下手だ」と言う。もっと上手い絵が見えているから言える言葉で、その言葉を聞くたび、震え上がるような気持ちになる。一枚の絵が描かれる瞬間は、いつも一度だけだ。行ける人は、ぜひ伊王島でその凄まじさを体感してほしい。目の前で的確な線が引かれ、見事な絵が完成していくのを見るのは、ちょっと、ほかにはない体験のはずだ。
4匹目の龍は7月23日に伊王島に降臨!
4匹目の龍のドローイングは、2016年7月23日(土)に、長崎県伊王島のビーチ”コスタ・デル・ソル”で行われる、ブルーフェス2016 四龍祭にて行われる予定です。こちらでは、ゲストミュージシャン(未定)の音楽に合わせた寺田さんのドローイングが楽しめるとのこと。気になる方は、公式HPで情報をチェクしてみてはいかがでしょう?