「電車に乗っておじさんを描く」
その1
連載第一回目は、いつも寺田さんがやっているという、電車の乗客をスケッチすることについて、お話を伺いました。電車に乗って、小さなクロッキー帳にボールペンでもりもり描き始めております。基本寝ているおじさんを描くということですが、あまりじっと見ていると、こちらの視線に気づいて起きたりするらしいので、チラッと見ては描き、時々窓外の風景に目をやり、「外の風景を描いてますよ」的カモフラージュもします。ちなみに、座ると他の乗客に描いているものを覗かれてしまうので、電車では座らないということです。
──中央線快速電車で、新宿から東京まで、約15分です。この往復で約30分スケッチしていただきました。
寺田 はい! これからっていうトコロで止めてみました! ホントは30〜40分ラクガキしてようやく手が動いてくるんですよ。仕事のときもそうなんですが。まあ、仕事したくなくて3時間くらいラクガキしてることもありますが!
身体が動き始めるのってどのスポーツでもそうですけど、30分くらいかかるんじゃないの? オレが自転車乗ってたときは、30分ペダル回してやっと走れるようになるなっていう感覚がありましたね。
一駅(約5分)で一人は描き終えていました。
──30分助走ルールがあるんですか。
寺田 オレの身体の起動は30分ですね。暖機運転しないと、手が動かない。30分くらいで、ようやく思い描いてる位置の線をなんとなく引けるようになるカンジ。
──一番最初に描いたおじさんの顔はイマイチだと仰っていましたが……。
寺田 いまいち。デッサンが取れてないというか、描きたい顔になっていかなかった。描き始めてすぐは目と手が連動してないから、カタチが取れないんだよね。
上、正面顔が最初に描いたおじさんの顔。「もっと面白い表情してたのになー」とのこと。
下の横顔は、あとで描き足しました。
──今日は電車のおじさんやおじいさんを多く描いていましたが、若い人には目が向かないですか?
寺田 うん。つまんないんだよねー若い人の顔は。
──年を取った人の顔には、皺があって、単純に描きやすいとか、特徴が出るとかではなくて?
寺田 単純に皺の問題もありますね、皺好きだし。ただ、時代がついてるもののほうが見てて楽しいですね。いろんな想像ができるじゃないですか。若者の顔には、自分の若い頃も含めて人生が顔に出にくいというか。だから顔面の魅力は美醜ではなくてね。どんなにその人が主観的につまらない人生を過ごしたとしても、それが60年の“つまらない人生”を積み重ねると、なかなか味のあるつまらなくない顔になったりするので、そういうのがいい。
若い頃は、そういう“人生の積み重ね”は想像するしかないから、人様の時間を拝見させていただいて、人生いろいろあるんだなっていうのを学べます。つまらない人生、充実した人生、それはどっちでも良くて、過ごした時間が顔に張り付いている様が好きなので、やっぱりおじさんに目が向きますね。
──寺田さんのおじさん、おじいさんの絵はよく見ます。では、同じように年を取ったおばさんや、おばあさんはどうですか?
寺田 やっぱり自分の性別が男なので、共感してしまうのが男性のほうなんじゃないかなー。たぶんそれだけの理由です。でもおばさんも描きますよ。描くんだけど、やっぱり女性は化粧をするじゃんか。そうすると、女性が自分の顔の上に描いた絵を見てるようなものだから、なんか違う。眉とか描くじゃん? 睫毛とか濃くするでしょ?
──うぐぐ。はい。眉毛を整えて描くし、睫毛も盛ります。白塗りします。
寺田 繕ってるものは面白くないのです。だから描く面白さは、すっぴんのほうですよ。すっぴんのおばさんがいたら、速攻で描く! 自分が注視するのはそういう部分だと思います。あと化粧に関わらず、若いと自意識が強い場合が多いので、顔作ってたりするしね。それが50、60歳になってくると、若い頃よりは自意識の発露がないので、「人にどう見られてもいいや」ってところが滲み出てきて「え? いいのそれ」レベルの素の顔で電車の中で立ってたりするのが、おじさんなんですよね。そこがいい。
電車揺れても全然平気。
おばさんも描くけど、面白いのはやっぱりおじさん!