【はじめての春】
風が耳をくすぐり、ひげがそよそよとなびく。
長い冬がすぎて鳥たちが「春が来たよ」と歌っている。
庭に立つと草の香りが胸いっぱいにひろがった。
ぼくはノア。
夜に溶け込むちいさな黒猫だ。
ぼくたちは静かな丘の上、森のはずれのにある小さな家に家族7匹で暮らしている。
母のフィオナ、兄のシルヴァンとクルク、姉のエレナとゾフィ。
そして旅に出ている父のルーカ。
じつは、外に出るのはこれが初めてなんだ。
花の香りに誘われて、ぼくは記念すべき外への第一歩を踏み出す。
と、そのとき、びゅうっと大きな風が吹いた。
ぼくの体はたちまち吹きとばされてしまった。
春って思ったより手ごわい。
きっとこれから不思議でおもしろいことがたくさん待ってる。
ぼくは春の光のなかを駆け出したくなった。
Illustration & Text (C)tono
編集部より
クラシカルな世界観を童話のような優しい筆致で描くイラストレーターtonoさんの連載が始まりました。
小さな黒猫ノアの成長と家族や友だちとの四季折々のエビソードを美しいイラストとショートストーリーでお楽しみください。
月1回の更新予定です。更新のお知らせはパイコミックアートのXにてお知らせします。ぜひフォローしてお待ちいただければ幸いです。