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絵を描いて生きていく方法?14.02.28更新

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「絵を描くのはなぜめんどくさいか」

 

第二回目「絵を描くのはなぜめんどくさいか」
その2

『レイヤーを重ねていく』

 

寺田 ちょっと別の話になるカンジですけど、よく小さい成功体験を積み重ねていくと、努力が苦痛ではなくなると言いますよね。いきなりできそうもないこと、例えば足し算ができないのに、微分積分を解くのは無理でしょ。小さい計算式を繰り返していくことで、解く喜びを知って、どんどん複雑な計算式に進んでいくでしょ。どんなものにも基礎は必要で、絵もデッサン取れるようになったとか、見ているカタチが正確に把握できるようになったとか、そういう段階を手に入れていくから、楽しくなっていく。

 最初からうまく描きたいと思って描いても、うまく描けないからやめるっていう人が星の数ほどいると思うんだけど、それはやっぱり突然うまくは描けないよね。マンガと違って「ホントのおまえは画力世界の絵王なのだ!」とは誰も言ってくれないし、隠れた超能力とか、基本的には持ってないので、埋もれている意欲を自分で掘り返さなきゃいけないよね。
 だから、小さい成功体験を自分に与える。薄いレイヤーを重ねていく。それが結果的に努力してたってことになりますね。たまたま出来てたっていうことだと思う。誰もオレに「絵を描くな」って言わなかったし。それを言われてたらわからないですね。

 

──ご両親に「絵を描くな」って言われてたら、今の寺田さんはない?

 

寺田 絵を描くことを推奨されてたわけじゃないけど、絵を描いててもいい環境は与えられて、絵を描ける場所に行けて、これを称してラッキーというわけですよね。色々な状況が考えられる中で、ここに生まれたのは運ですよ。アフリカで現在一千万人を超える数がいるエイズの子供として生まれていたかもしれないし。日本に生まれたとしても時代が違ってたかもしれない。自分はたまたまそうじゃなかったってだけで、生まれからラッキーなわけで、そもそも人生は不公平なものですよね。

 だから感謝して生きなさいっていう部分がオレには必要なんだろうし。現実を取り巻く、そういうことも踏まえて自分のモチベーションを常にブラッシュアップしていくということはしています。

 冒頭の話に戻ると、目的がないと人は進めないので、目的を設定するわけです。小さい成功体験とは別に、生きてる間はとても到達できそうもない、山の頂を一つ設定しておくといいよねー。どうしたって人は死ぬので、それ前提で最初から届きそうにない目標を掲げておくのは大切だと思います。

 

──それは仕事でも、仕事じゃなくてもいいのでしょうか?

 

寺田 生きること全般に。大きな目標を作っておくと、小さな目標を達成したときに、燃え尽きないで済むよ! ってことかなー。

 

──寺田さんの大きな目標はなんですか?

 

寺田 絵がうまくなること。

 

──それは生きてる間は、到達できない目標?

 

寺田 到達できませんよ! 自分の理想には。オレが考える絵がうまいっていうのは、こんなもんじゃないんでね。それはもうそこに行き着けるかなんてわからない。でも、やっぱりそういう目標もってないと、「最近ちょっとうまくなったよねー」ってくらいでやめちゃう可能性もあるじゃない。

 例えば、ロボットをかっこよく描きたい! っていう目標があったとして、もうすべての人が褒めそやすような究極のロボットを描けるようになっちゃったら、次の目標を探さなくちゃいけないでしょ。でも、そうじゃないもっと抽象的な目標を置いておくと、いつまでも使えるじゃないですか、雑巾のように。モチベーションてそんなもんですから。

 目標はなに? っていったときに、年内に本を出すとか、締め切りも目標だよね。人から設定されたとはいえ、自分で引き受けたわけだから。トータルで十年のうちにこんな仕事をしたいなっていうのも目標で、そういう細かい単位でいっぱい目標を作っておいて更にその向こう側に、到達できない目標を設定しておく。「オレはいつかあそこに行きたいんだよね」ってちょっとずつ歩くんですよ。でも、大きな目標は自分で見えてなくちゃいけない。見えていれば、人間は行けると思うんですよ。

 目標と自分の間に底の見えない深い深い谷があったとしても、崖を下りてみようとか、崖を上がるためにはどうしようとか、なんなら飛んでみようとか、そのためにどうするか手段を考えるじゃないですか。オレは死ぬけど、子供は辿り着けるかもしれないとか。そういうのが人間の営みですよね。
 本来目標を達成することは、時間じゃないんですよね。「すごく絵がうまくなりたい」っていうのは、どうしたって時間がかかるので、オレの中では生きてる間に行ければいいなっていう目標に過ぎないんです。だから、この目標に関して言うと、オレの中では時間の感覚はないし、時間設定はしない。

 

──時間設定なしの目標ですか。恥ずかしながら考えたことなかったです。目の前にある小さな目標が精一杯で。

 

寺田 その小さな目標が途切れなければいいんじゃないかなー。でも、誰でもホントはあると思いますよ、大きな目標。

 

──ううむ。

 

寺田 時間設定しない大きな目標に辿り着くことを、待てないって気持ちはもったいないんですよ。

 

──といいますと?

 

寺田 例えば、お金持ちの旦那さんがいて、職人にすごい壷を作ってもらうよう頼んだとします。「その壷が焼き上がるんならいつまでも待ちまっせ」とか。

 

──いつまでも待つとか言ってたら、その旦那さん死んじゃうかもしれないですよ。

 

寺田 死んでもいいんですよ。ここで言う「いつまでも待つ」はそれも織り込み済みの言葉だから重いんです。本当に好きなものを待つっていうのは、そういうことかなと思うんです。頼んだ壷ができて、それが本当に素晴らしいものだったら、頼んだ旦那さんが死んでも、その後も誰かが楽しめるでしょ。「すごい壷を生み出させた」って満足して死ねる可能性があるわけです。それを内包した「いつまでも待ちますよ」という大きな言葉なんです。

 ところが待てない気持ちを優先させると、その後世に遺るようなすごい壷は生まれないんですよ。旦那さんの待てない気持ちがそのチャンスを潰してしまう。そーゆー「待つ」って気持ちを自分にも向けよう、ということです。待てない気持ちを自分に振り向けてしまうと、きついですよ。せっかちな人はやめちゃうんですよ。絵で言えば、ちょっと描いてうまくならないとすぐやめちゃう。だから、それはすごく恐いよと。可能性潰しちゃうよ。

 待てない気持ちはオレにもあるから、すごくよくわかるんだけどね。新しいデジカメをネットで買ったとしたら、今日来ないと死ぬ! とか思うし。でもそういう気持ちを自分の目標に振り向けたときは恐いなと思う。もし、そういう理由で何かを諦めてる人がいたら、それはもったいない気がする。
 何が待てないのか、待てない理由ってなんだろう? って考えるんです。デジカメだったら、オレなんでこのデジカメ待てないんだろーって思うわけです。アレなんで今すぐ欲しいんでしょうね?

 

──大きな目標はずっと待てるんだから、デジカメも来週でいいでしょう。

 

寺田 でも「今欲しくてどうにかなりそうだ!」って気持ちはなんなんだろう? ちょっと性衝動にも似たものがあるんですよね。でもそれは脳がなせる衝動なので、その衝動はどこから来てんの? って考えるんです、落ち着かせようとして。でもわかんないんだけどね。
 そういう欲求の強さは知ってるから、すごい恐怖ではありますよね。

 

──今日は絵を描くのがめんどくさいって話をしながら、おじさんの絵を描いてる寺田さんです。

 

寺田 やっぱりおじさんを描いてしまった…。これなんとなくホームがレスな人を描いてるカンジですが、人はホームレスになるにはいろいろな理由がありますよね。もちろん仕事がたち行かなくなって借金抱えて家をなくしたっていう人が大多数ではあると思うんですけど、中にはめんどくさいのを受け入れてなっちゃった人もいると思うんです。働くのがイヤになってね。
 そういう人はいて当然だと思う。生きて生活することを最大の目標として掲げれば、ホームレスでもいいわけですよ。それにおいては、是非はなくて、そういう人がいるのも確かだと思ってます。なぜなら自分にもそういうところがあるから。

 昔から、ホームレスを見ていると、大変だなって思うと同時にわき上がる羨望の視線が自分の中に存在するんです。それが恐いんですよ。実際なると大変だろうし、そこにもめんどくさい人間関係はあるだろうし。

 

──空き缶集めたり、働いてるホームレスはいますよね。

 

寺田 働いてますね。ホームレスになろうと思ってなった人は、それなりに楽かもしれないけど、そうじゃない人にはすごいきつい状況だと思う。こうは言っても、オレの中に勤勉な部分もあるので、楽の方向性の話で言えば、やっぱり屋根があって、布団の中で寝たいっていう気持ちが、今の環境に留めているわけですが、その気持ちがなくなってしまえば、ホームレスになんの抵抗もないわけです。その自分の中にあるホームレス状態への羨望が恐いんです。
 オレが5、6個締め切り落としたら、そうなりかねないわけですから。羨望と恐怖があって、今は恐怖が勝ってる状態。それが勝ってるうちは仕事を続けていけるっていうね。

 

──恐怖もあるでしょうけど、寺田さんにとっては、仕事をしてお金もらって屋根の下で暮らすほうがホームレスより楽だと感じているんですよね。

 

寺田 うん。そういう楽を選んでるんです。ちょっと頑張って描けば、それなりの生活を送らせてもらってるんで、めんどくさいとの戦いは今日も続いてます。
 ――結論。めんどくさくても描きましょう。

 

──働くすべての人に言えることですね(笑)。

 

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寺田克也

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