【宮歌蛭子(ミヤウタエビス)1】
今日はクラスメイトの奥村ひさぎの家に遊びに行く。
ゆっきー、朝生(あさお)、夕(ゆう)も一緒だ。
「次は~宮歌村~」車内放送が流れやっと小さな漁村に着いた。
「思ったよりあっついなー」汗をかきながら向かった家は遠くからでもすぐにわかった。
「やっほー!はるばるようこそ~!」
ひさぎが大きな門からひょこっと現れた。
「みんなでお泊まり会、一回やってみたかったんだよねー!!」
網元のひさぎの家はまるで御殿だ。家の中は迷子になるくらい広い。
2階に上がって広い廊下に差し掛かると、ひさぎは突然声を潜めた。
「あー…あのさ、この先婆ちゃんの部屋なんだけど……ちょっと面倒な人で、気づかれないようにお前らそーっと通れよ…。」
言われるままに4人が忍び足で通ると、薄く開いた襖の隙間から嗄れた念仏が聞こえてきた。
そして俺が通った瞬間、その聞き慣れない念仏がピタリと止まった。
反射的に思わず襖の奥に視線が吸い寄せられる。
中央に座っていた髪をボサボサに乱した老婆が、ゆらりと立ち上がったかと思うとバン!!と襖を開け突進してきた。
「ひさぎ!蛭子(えびす)様の祭りが近いってのにヨビヒコサマば連れてきよって!」
「うわー!!」
「ばあちゃん!こいつら俺の友だち!ヨビヒコサマじゃないよ!」
ひさぎは、ブツブツと独り言を言う怖い目つきの老婆を抱えるように部屋の奥に連れ戻した。
「はあ…びっくりした…」あまりの迫力にまだ心臓がバクバクしている。
確か老婆は俺を見て「ヨビヒコサマ」といった気がした。
どこかで聞いたことのある言葉だったが、どうしても思い出すことができなかった。
--ヨビヒコサマって何だ?
キャラクター:奥村ひさぎ
第3話 宮歌蛭子(ミヤウタエビス)1終わり
Illustration & Text (C)tsukku
今回は、妖平のお金持ちのクラスメイト ひさぎ君登場。狐ヶ塚から遠く離れた宮歌村(みやうたむら)のお屋敷に住んでいます。ひさぎ君もお祖母様も一癖も二癖もありそうですね……
次回は10月中旬更新予定です。