探索者たちの目の前に姿を現した「巨大生命体」は、言葉では形容しがたい姿形をしていた。
あまりにも壮観なその姿は、見上げることでようやく形が確認ができた。
人型のそれは、眼球らしき部位を探索者たちに向ける。
声にならず、自らの判断を責める探索者たち。
安易に他次元の宇宙に渡っては行けなかった、発見してはいけなかった存在と巡り合ってしまった、と。
「なんなんだよあれは……ふざけるな!!」
「私は今見えてるあれが何なのかはわからない。
だけど、本能が、体が。芯から私に訴えている。逃げなきゃって」
「そんなことはいいから、早く引き返すんだ!」
「燃料消費が脱出に必須な量を上回らないよう、飛行はスピードを制限しよう。
……にしてもあの巨大生物……。
我々の宇宙にも多種多様な地球外生命が存在するが、姿形は皆特徴があって全てが異なる存在だよな。
どうしてあの巨大な生き物は我々と極めて体型が似ているんだ。
一体なぜ……」
「さあな。その考え方だと他次元宇宙の人間とかじゃないのか?
とにかく、もうこれ以上この惑星には留まれない。速やかに脱出し、我々の宇宙に帰還する」
「方法は? 今は空間中になんとか留まっているが、失敗したら……私たち、ここで丸焦げになるんだよ」
「! じゃあどうすれば……」
「…………。一つ、プランがあるんだ。
シップの全装備を廃棄し極限まで軽量化する。
両翼のエンジンパーツの一部だった潜水ユニットと、陸上走行ユニットのエンジンをシップの翼エンジンに結合。
燃料もすべてシップに移す。これでパワーが上昇した大型エンジンの完成さ。
こいつを使って脱出しよう」
「──私たちの船にこんな大型エンジンが装備されていたというのか」
「そう。翼部分の二つは元から装備されていたかなりの骨董品。
正体は惑星開拓時代に使用された母艦型エンジンの小型版さ。馬力は元のシップの比じゃないよ。
エンジンが四つ付いたってこっちには敵わない。その代わり燃料をかなり消費するけどね」
「惑星開拓時代!? いつの話してるんだ。
そもそもなんであんたがそれを知っている。
あの時代を生きてた奴はほとんど残っていないってのに」
「……それよりも、今は生き残ることが重要だよ。
おまえは船の軽量化。私はエンジンの組み立て。
時間はない。早く取り組もう」
「──こちらはいつでも行ける」
「了解。では操作は頼んだよ。
旧型のせいか、手動じゃないとあまり上手く作動しないんだ」
「では開始する。5秒前。
3──2──1────、点火!」
「なっ、んて力だ……! 操縦桿を上手く握れない……」
「今は耐えて……! この星の重力層から抜ければ私たちは帰れる!」
「あああぁぁぁあ! クッ!? ────冗談だろ! またお前かよ!」
「避けて!! ルートを見失わないで!」
「わかってる……っ!」
「おいまずいぞ……。燃料が底を尽きそうだ!
どうする……、このままじゃ算出したルートを辿れない」
「平気だ! これを見てくれ!」
「──なんだそれは」
「細菌の惑星で採取した。爆速で自己複製する菌さ!」
「そんなものが一体なんの役に立つ!?」
「こいつの特徴は周囲の物質に合わせて、全く同じ姿に変化し、爆速で増殖する。
私が実験した限り、どんなものにでもだ!」
「……? じゃあ、それはつまり、燃料タンクに放り込んだら───」
「そう。私たちは無尽蔵の燃料を手に入れる」
「燃料メーターが回復している……!
まさかあの星の菌に救われるなんて……」
「さあ、宇宙まで一直線だ」
「裂け目が閉じていく…………。
結局なんだったのだ。向こう側の宇宙は。
あの人間のような巨大生物も……」
「まだまだ知りたいことはあったけど、今はお預けかな。
とにかく救難信号を出そう。
あのエンジンはもう菌に侵食されて使い物にならない」
「いいのか。かなり貴重なものだったのだろう」
「……いいんだ。そろそろ休ませてあげないと」
「しっかし──こうまでして死にかけたのに、探査ログとして上に提出できないなんて。
規則を破ったとはいえ流石に名残惜しい」
「おや。スリルが欲しければ、私と一緒に来るといい。飽きないと思うよ」
「──いや、それはそうなのだがあんたといると早死にしかねない」
「そんな! 頼むよ! これまで組んでくれた人たちは皆私を避けたがるんだ!」
「あんたがいつも危ない目に合わせようとするからだろーが!」
「いやいや、私にそんなつもりは──」
第一部 fin.
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