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御霊帰し(みたまかえし)23.11.17更新

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三ツ夜妖平(ミツヤヨウヘイ)

【三ツ夜妖平(ミツヤヨウヘイ)】

「三ツ夜家は俺で終わりだ。終わりにする」それが親父の口癖だった。

小学2年生の時、母は俺を連れて家を出た。母と母の若い彼氏と一緒に横浜のアパートでしばらく過ごしたことを覚えている。

神さんはどこに行ってもいるもんだ。俺を見つけて寄ってくる。

母はそんな俺を見るのがもう限界だったのか、俺を施設に預けそのまま中学は寮に入った。俺は神さんから身を守る術を知らなかった。

 

大人たちの間でどんな話し合いがされたのか知らないが、結局、俺は狐ヶ塚に戻ることになった。

すでに親父は死んでいた。分家の叔父にあたる「じいちゃん」が神社を守ってくれており、なんとか神さんを鎮めてやり過ごしていた。町の人はみんな、戻って来た俺を歓迎してくれた。初めて誰かに温かく迎え入れてもらった気がした。

俺はじいちゃんから、「御霊帰しの儀式」を初めて教わった。御霊帰しは、神様と交渉して神の国へ送る。三ツ夜家本家の者にしかできない特別な儀式。なんで親父は俺に教えてくれなかったんだろう…。

 

こっことは、狐ヶ塚に帰ってきた日からの付き合いだ。

「おかえりなさい」と知らない少女が目の前に現れたのを覚えている。

遠い記憶の父の隣にも、こっこのように白髪の若い男の人がいたのを思い出した。神さんを見慣れていた俺は、その異形の存在に驚かなかった。「神さんと仲良くしていいのー?」そう父に聞いた記憶がある。

「きつねさんはな…いいんだ」父はそう言った。「この神社にずっと居て、神主を助けてくれるんだ」と。「アルバイトってこと?」覚えたての言葉をぶつけたら、隣にいた白い髪の若者がふふっと柔らかに笑った。切れ長の目の、白い肌の男の人だった。たしかその人の名前は…

「ああ、テンマか、死んだじゃね」

間髪入れずに少女が答えた。庭の土いじりをしながらこちらを振り向きもせず。俺が何かを聞く前に、「うちらは御霊を“繋いどる”一緒に生きて、一緒に死ぬ。妖平の相棒さんはうちじゃね」と言い「妖平は帰しだけわかればええ」と、独り言のように付け加えふふっと笑った。

それから何も聞かなかった。もう何も、深く知りたくなかった。

親父が死んだ時、髪が真っ白だったという話も…。

 

第5話 三ツ夜妖平(ミツヤヨウヘイ)終わり

Illustration & Text (C)tsukku

妖平くんの過去、こっこちゃんとの出会い、いかがでしたでしょうか。

次回は12月中旬更新予定です。

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御霊帰し(みたまかえし)

つっく

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