PIE COMICS

御霊帰し(みたまかえし)24.02.16更新

SHARE ON

児玉家(コダマケ)

【児玉家(コダマケ)】

こんな時間まで追試で居残りになったのが悪かった。

「線路で“神さん”が死んでいる」という理由で、電車が運休になってしまったのだ。

まさか轢かれたのか? まあ、死んだ神さんはじいちゃんが何とかしてくれるだろう。

学校から三ツ夜神社の最寄駅 狐ヶ塚までは3駅。

「仕方ない」

部活帰りの朝生と歩くことにした。

「朝生って隣町の射首(うつくび)町だったよな。あそこからバスに乗るか」

「ツイてないな」

朝生が肩をすくめた。

「朝生、夕は一緒じゃないの?」

「あいつ最近部活サボってんだよ。そろそろ絞めないとな」

笑いながら田舎道を歩いていると、目の前に毛を逆立てシューッと威嚇している猪の神さんが現れた。普段殆ど見かけないやつだ。

朝生は足を止めた俺に不思議そうに「どうした?」と声をかけた。見えていないのだ。説明している時間も無い。鞄の中の御札を取り出そうとした瞬間、凄まじい勢いで巨大な何かが飛んできた。

そいつは、猪の神さんを咥えてあっという間に目の前から消えた。

「ギィヤアアアッ――――――」

数秒後、遠くの山からけたたましい断末魔がここまで響いた。一瞬だったが分かった。巨大な何かは禁足地のヌシに間違いなかった。

「ひ…びっくりした…」

訳がわからず突っ立っている朝生を促して、歩きながら今起こった一部始終を話した。

初めはビビって聞いていたが急にはっとした顔になり黙り込んだ。そしてボソっと独り言ように呟いた。

「ああ…俺のせいかな」

「えっ?」

「今日御札忘れたんだよ」

「えっ?」

「俺さ、ガキの頃事故で死にかけて。それから霊界に近くなったんだって」

霊界と近い人は稀にいる。神さんや幽霊が見えなくても、向こうが手招きする方に無意識に近づいてしまう。ゆっきーのように朧気にでも見えれば身を守る事が出来るのだが…。

「それで家族全員うるさいんだよな。墓には近づくなとか、川には行くなとかさ」

ふと、夕の神さんに対する振舞いを思い出した。もしかしたら、朝生から神さんを遠ざけようとしていたのか、それにしては手荒だが……。そんなことを考えているうちに射首町のバス停が見えてきた。

「朝生、これあげるよ」

鞄から出した御札を彼に差し出す。

「え、いいの? 妖平は?」

「他にも対処法はあるし、ここからそれなりに歩くだろ」

「悪い、ありがとう」

「じゃあまた明日な」

 

妖平と別れて家に着くころにはもう随分と暗くなっていた。ドアを開けた途端、

「まだ入んじゃないよ!まだ!」

母ちゃんが俺めがけて豪快に塩を振ってきた。

「うわっいきなりやるなよ目に入った」

「まって母ちゃん俺にもかかるって!」

夕が声を上げる。

「やだ、これ塩胡椒だわ」

母ちゃんがガハハと豪快に笑う。

「ほい、水」

ぬっと現れた親父が俺の手に水をかけると、一気に三人は捌(は)けていった。

「なんだよ急に…」

 

二階に上がり制服を脱ぐとぱらぱらと残った塩胡椒が落ちる。最悪だ。

「兄貴、今日御札忘れただろ」

いつの間にか、隣に立っていた夕が俺を睨んでいた。

「あー、でも妖平がくれたんだよ」

「気をつけろよー最近祭りが近いから気ぃ立ってる神さんが多いんだよ」

夕の言葉に、思わずふっと笑ってしまった。

「本当に、うるさい家族だな」

 

 

第9話 児玉家(コダマケ)終わり

Illustration & Text (C)tsukku

“神さん”が線路で死んでいる狐ヶ塚の日常、そして児玉家……いかがでしたでしょうか。

狐ヶ塚では近年、人が暮らす様々な場所に神さんが姿を現す事例が増えているんだとか。

次回は3月下旬更新予定です。

 

WEB連載

御霊帰し(みたまかえし)

つっく

SHARE ON